2023年に30周年を迎えた「機動戦士Vガンダム」
富野監督の「このDVDは見られたものではないので買ってはいけません」発言や、鬱アニメのネタとして扱われる事が多い本作でしたが、各メディアでVガンダムの制作スタッフが当時を回顧する機会が増え、再評価が始まっています。
このブログでは、Vガンダムに登場するメカ・キャラクターの演出方法や制作当時のエピソードについて解説します。
過去にVガンを観たことのある方も、改めて振り返ってみると新たな魅力を発見できます。
第3話「ウッソの戦い」
放送日・スタッフ(敬称略)
- 放送日:1993年4月16日
- 脚本:園田英樹
- 絵コンテ:西森章
- 演出:高瀬節夫
- 作画監督:前田明寿
あらすじ
ウーイッグに向かったウッソが見たものは、ベスパのイエロージャケット部隊による凄惨な空爆だった。必死でベスパに抵抗するウッソ。戦闘で気を失ったウッソは、カテジナの膝枕の元で目を覚す。空爆を生き延びた二人は、孤児となったカルルマンを連れ、カサレリアに避難する。そこにウーイッグを空爆したベスパのサバト隊と遭遇。マーベットの援護を受けたウッソはベスパを撃退。リガ・ミリティアのカミオン隊のメンバーと合流する。
キャラクターについて
ウッソ・エヴィン
ウーイッグ空襲
憧れの女性カテジナ・ルースの安否が気になり、特別区ウーイッグに向かったウッソ。
Aパート(前半)は、ベスパのイエロージャケット部隊によるウーイッグへの空襲が描かれます。
「なんてことをするんだ、あんたたちは。この街を焼いて、人◯しをやって、何が楽しいんだ!」(ウッソ)
無慈悲な攻撃を行うベスパに憤るウッソ。
ベスパのMSシャッコーに乗っているウッソは、リガ・ミリティアのレジスタンスから敵と誤認されます。
「ハンター気取りのパイロットを◯せ」
「人◯しを楽しませるな」
リガ・ミリティアのレジスタンスは、対MS戦用の火器で応戦。無慈悲な攻撃をするベスパに対する激しい憎悪が伝わってきます。このレジスタンスの行動は、Vガンダムの製造工場を隠すための陽動でもありました。
ここでウッソは、ベスパのパイロット=サバト少尉と遭遇します。
「ビームライフルを使って核融合エンジンを爆発なんかさせられないぞ。」(ウッソ)
非現実な状況でも、ウッソの判断は冷静です。ビームライフルからサーベルに持ち替え、白兵戦に持ち込もうとします。
ここで再び、リガ・ミリティアのレジスタンスの介入があります。
引用元:アニメ『機動戦士Vガンダム』第3話「ウッソの戦い」 ©創通・サンライズ
「リガ・ミリティアに勝利を」と、建物の起爆スイッチを押します。この爆発に巻き込まれ、ウッソはサバトとの戦闘を回避します。
この人物は、Vガンダム製造工場の工場長ボイスンではないかと思われます。
カテジナを捜索するウッソは、ベスパのパイロット=クリスと会敵。
「民間人だぞ。市民だぞ。戦争をしている人じゃないんだぞ!」(ウッソ)
必死の抵抗で、クリスのトップターミナル(戦闘ヘリ)を沈黙させます。
戦闘不能になったトップターミナルから脱出したクリスは、リガ・ミリティアのレジスタンスから銃撃され、命を落とします。
初めて人の命が失われる様を目のあたりにしたウッソは打ち震えます。
リガ・ミリティアのレジスタンス(子安さんの演じるモブキャラ)は、コクピットにいたのが年端もいかない子供である事に驚愕します。
母親を失ったカルルマンの泣き声。
「ウッソビョウキ・ウッソビョウキ」(ハロ)
千住明氏の劇伴「沈黙」と重なって、これでもかの悲壮感を演出しています。
緊張と疲労の限界を超えていたウッソは、気を失います。
非日常の世界に放り込まれたウッソを見つけてくれた(=助けてくれた)事に安堵したからかもしれません。
カテジナとの再会
リガ・ミリティアのレジスタンスが潜伏する避難所。
気を失っていたウッソは、カテジナの膝枕の上で目を覚まします。
近づくカテジナに赤面するウッソ。年上の女性に片思いする少年らしさが描かれます。
引用元:アニメ『機動戦士Vガンダム』第3話「ウッソの戦い」 ©創通・サンライズ
ウッソのサバイバルスキル
ベスパの空爆により、生き埋めになったウッソとカテジナ。
Aパート(前半)の鬱展開から打って変わって、二人の脱出劇が始まります。
暗闇の中、懐中電灯で周りを照らしてみると、横には血まみれの◯体があって驚くといったコミカルな演出。
空気が薄くなっていることに不安を漏らすカテジナに対して、ウッソはここでも高いサバイバルスキルを発揮します。
風の流れを読みとり抜け出せそうな空洞を発見。手頃な岩を用いて土を掘削するのです。
「ちょっとホコリでますよ」(ウッソ)
掘削する前にカテジナへ一声かけるウッソ。紳士ですね。生死に関わる状況で、このような気遣いができる13歳のウッソって一体どこまでスペシャルなのか。片思いの女性の前でこれができたら、きっとポイント高いはず。
空洞の先にあったのは、旧世紀の地下鉄でした。
引用元:アニメ『機動戦士Vガンダム』第3話「ウッソの戦い」 ©創通・サンライズ
「地下鉄ー?」と顔を見合わせる二人。
ウッソとカテジナが意気投合する非常に貴重なシーンです。
故郷カサレリアを守る戦い〜シャッコーVSゾロ
ウッソは、カサレリアにいるシャクティを守るため、シャッコーの捜索にきたゾロと戦闘に入ります。シャッコーのコンソールを使ってMSの照合や姿勢制御、ビームサーベルでの白兵戦(チャンバラ)までやってしまうウッソ。既にシャッコーを自在に使いこなしています。
ウッソの故郷カサレリアを守りたい気迫で、ゾロのパイロット=リーに攻勢をかけますが、サバト少尉の援護で数的不利になり、ウッソは次第に追い込まれます。
しかし、窮地に陥っても策を講じるのがウッソの特異なところです。
引用元:アニメ『機動戦士Vガンダム』第3話「ウッソの戦い」 ©創通・サンライズ
「ビームサーベルを束にしたら…」(ウッソ)
作戦は失敗に終わりますが、柔軟な発想と行動に移すのが早い。
「あのウッソが戦っているの?」(カテジナ)
カテジナは、ウッソの戦いを見て驚きます。
マーベットらカミオン隊の援護により形成逆転したウッソは、リーのゾロを撃退。サバト少尉を撤退に追い込みました。
ウッソの撃墜数
ウッソが劇中で敵機を撃墜した数をカウントします。
撃墜としてカウントする定義は、戦闘不能状態(もしくは撤退)になったもの。小破・中破にかかわらずカウントします。
引用元:アニメ『機動戦士Vガンダム』第3話「ウッソの戦い」 ©創通・サンライズ
- 2機(ゾロ・クリス機・リー機)シリーズ累計 4機
カテジナ・ルース
このエピソードでカテジナの歪な家庭環境が描かれます。かつてのアムロやカミーユといった宇宙世紀のガンダム主人公と同様に、彼女の家庭環境は決して恵まれてはいません。
ガンダム主人公の系譜を引継ぐヒロイン
カテジナの父テングラシー・ルースは、ウーイッグで商いをしています。
引用元:アニメ『機動戦士Vガンダム』第3話「ウッソの戦い」 ©創通・サンライズ
ルース家は小売店?「ギフトショップMIEKO」の看板が確認できます。
テングラシーがどのような人柄なのかは、次の台詞から垣間見れます。
「私たちは助かるかもしれん。」(テングラシー)
「まさか。なんでです。」(カテジナ)
「地球連邦軍がこの町を見捨てた時のことを考えて、私はザンスカールのベスパと商取引をしようと交渉していたんだよ。」(テングラシー)
(中略)
「自分たちだけが無事ならそれでいいの。」(カテジナ)
「私はお前が母さんを守るためにしたくもない取引をしているんだぞ。」(テングラシー)
「そういう母さんがここ2、3日どこにいるか知ってて父さんは。」(カテジナ)
「うるさい」(テングラシー)〜カテジナの頬をひっぱたく
このやりとりから、カテジナの母は既に家を出ていることがわかります。
家族の事を考えていると言いながら、子供に核心を突かれ動揺するテングラシー。
情けない父親。他の富野作品と同様に歪んだ家族関係が描かれます。
引っ叩かれたカテジナは、テングラシーを睨み返します。カテジナの反骨心が垣間見られます。
そしてカテジナは、家を出る決意をします。
父親との決別。
千住明氏の劇伴「白い幻」によって、カテジナの意思の強さと高揚感をより引き立たせています。
ウッソと行動を共にすることになったカテジナは、被災したウーイッグを離れます。
カルルマンを抱いたカテジナは、シャッコーの掌に乗る。
その後、カテジナの顔にカメラが固定したまま。
引用元:アニメ『機動戦士Vガンダム』第3話「ウッソの戦い」 ©創通・サンライズ
〜目を瞑る〜(=シャッコー飛び立ち)風を感じる〜目を開ける〜
空に飛び立つ(風を感じる)ことで、非日常(=戦争)や親のしがらみからの心の開放を演出しています。
育ってきた家を眼下に見ながら、カテジナは吐露します。
引用元:アニメ『機動戦士Vガンダム』第3話「ウッソの戦い」 ©創通・サンライズ
「家はめちゃめちゃで、父の姿も見えなくなっていた。2、3日前から出歩きっぱなしの母は、どうせウーイッグの外で男にでも会っているんだわ。」(カテジナ)
親からの愛情が希薄だったことで屈折してしまったカテジナ。
大人に対する反抗心に繋がっていることは随所に描かれています。主人公(=ウッソ)が憧れる年上のお姉さんに、宇宙世紀のガンダム主人公が抱えてきた業を背負わせています。このVガンダムのもうひとりの主人公は間違いなく彼女なのでしょう。
クロノクル・アシャー
主人公ウッソからコクピットを追い出され、一晩中森の中に潜伏していた切ないライバル。同じく、ウッソに敗北し、森の中を彷徨っていたガリーと遭遇します。
優しすぎるライバル
満身創痍のガリーは、自分がこんな目に遭うきっかけとなったクロノクルに食って掛かります。
「昨日はな、貴公に見捨てられて、私の方が腹を立てていた。」
「拾った命は無駄にするな」(クロノクル)
と、ガリーを慰めるクロノクル。
クロノクルはとにかく優しい。ガリーに見捨てられ、一晩も放っておかれたのに恨み言のひとつも言わない。女王の弟だからこその余裕なのか。
「テスト終了時で貴公はザンスカールに戻る予定になっていたのだから、予定通り帰れば良いのだ。」(ファラ)
この台詞から、クロノクルはラゲーン基地の正規の所属ではなく、一過性だった事が伺えます。現実世界でいうお偉方の現場視察のようなものでしょうか。ここでもやはり、「女王の弟」というレッテルがつきまといます。
平成ガンダム声優大集合
第3話「ウッソの戦い」では、ウーイッグの空襲を行ったベスパのイエロージャケットのパイロットやモブキャラの声を、後の平成ガンダムシリーズの主要キャラを演じた声優さんが多数努めていることで知られています。豪華声優陣の初々しい演技を見られる貴重な回です。
ライオール・サバト(CV:子安 武人)
引用元:アニメ『機動戦士Vガンダム』第3話「ウッソの戦い」 ©創通・サンライズ
ベスパ「イエロージャケット」のパイロット。少尉。「あれは私の獲物だ」「機体をズタズタにしてやる」好戦的で冷徹な台詞が印象的です。
反面、「ガリーをあんな目に合わせたのは貴様か!」と仲間意識が強い一面も見せます。ガリーとの仲の良さは、次のエピソードでも描かれます。
クリス・ロイド(CV:関 智一)
引用元:アニメ『機動戦士Vガンダム』第3話「ウッソの戦い」 ©創通・サンライズ
ベスパ「イエロージャケット」のパイロット。「逃げろ逃げろ」と無差別に人◯しを楽しむ。
カルルマンは戦災孤児となるきっかけとなった張本人。「貴様らに地球を汚す権利はない」と主張したクロノクルのような志がなく、マンハンターのような兵士。
「F91」の「クロスボーン・バンガード」では、上官パイロットが市民には手を出すなと部下に指示している描写があります。貴族主義の思想が軍の中にも定着してしました。
今作のクリスの行動は正反対。度重なる戦闘によって、人間的な倫理を失ったのかは定かではありません。「Vガンダム」では、戦争がもたらす人の闇が描かれます。
ウッソに妨害されたクリスは、ゾロから降りたところをリガ・ミリティアのレジスタンスに射◯されます。
リー・ロン(CV:緑川 光)
引用元:アニメ『機動戦士Vガンダム』第3話「ウッソの戦い」 ©創通・サンライズ
ベスパ「イエロージャケット」のパイロット。遭遇したシャクティとオデロに対して、
「何もしない。話を聞かせろ」と民間人には寛容な一面を見せます。
名前と容姿から、アジア系の人種であることが伺えます。
サバト少尉と共に、ウッソのシャッコーに数的優位のMS戦に持ち込みますが、マーベットらカミオン隊の不意打ちを受け退場。
ガリー・タン(CV:山崎 たくみ)
引用元:アニメ『機動戦士Vガンダム』第3話「ウッソの戦い」 ©創通・サンライズ
べスパ「イエロージャケット」のパイロット。少尉。
第2話「マシンと会った日」でウッソの初戦の相手。サバトと仲が良いことが描かれます。
モビルスーツについて
ゾロ
引用元:アニメ『機動戦士Vガンダム』第3話「ウッソの戦い」 ©創通・サンライズ
ウーイッグの郊外で待機しているボトムターミナルをウッソは発見します。
攻撃する意思もなく無機質に滞空している姿は不気味。
シャッコーに乗っているのがクロノクルではないと察したサバト少尉が、無線でボトムターミナルを誘導する操作をします。
引用元:アニメ『機動戦士Vガンダム』第3話「ウッソの戦い」 ©創通・サンライズ
ゾロの変形・合体シークエンスが見られる貴重なシーン。
ゾロはザンスカールのMSの中でかなり気に入ってます。この時代のMSの全高は15m。このサイズに複雑な分離合体機構を盛り込んでいる技術がすごい。分離して上半身が戦闘ヘリ、下半身が爆撃機になる。昆虫のような頭部に猫の目ギミックも不気味なかっこよさ!モスグリーンの量産機カラーもしぶい!魅力的な量産MSです。シャッコーがガンプラ化されたときは「とうとうゾロの出番もやってくるかも!」と、期待していたのですが、Vガン30周年でも何も起こらなかった…。次の機会は40周年でしょうか。
エアバックの演出について
引用元:アニメ『機動戦士Vガンダム』第3話「ウッソの戦い」 ©創通・サンライズ
機体の衝撃を感知して自在に伸び縮みするベルト。パイロットを保護します。
逆シャア時代のエアバッグ型から劇的に進化しています。
パイロットスーツを着ていない生身の身体でもシートに密着できるので安全性が高いです。
Vガンダムの世界背景
引用元:アニメ『機動戦士Vガンダム』第3話「ウッソの戦い」 ©創通・サンライズ
避難所に潜伏中のリガ・ミリティアのレジスタンスが、ウーイッグの避難民に対して、このように訴えています。
「ザンスカール帝国は、ギロチンまで使用した恐怖政治によって我々を屈服させようとしているのです。しかし、スペースコロニー同士の内紛も続いている現在、必ずや地球連邦政府は我々を助けてくれます。頑張れば、ザンスカール以外のコロニーからも救援は来るのです。それまで戦い続けるのです。」
ザンスカールのギロチンを使った恐怖政治。宇宙世紀0153の宇宙戦国時代の情勢が語られます。統治すべきはずの地球連邦政府はその役割が機能していません。地球連邦軍が動き出すのは物語の終盤になります。
最後に
コミカルな活劇だった前のエピソードとは一変して、宇宙世紀ガンダムの王道の展開でした。
前半Aパートはウーイッグ空襲による非情な戦争が描かれ、ウッソと視聴者のメンタルが削られます。
ウッソとカテジナが行動を共にする展開やカテジナの家庭環境が語られる貴重な回です。
親のエゴに振り回されるカテジナの鬱屈した境遇は、過去の宇宙世紀の主人公を彷彿とさせます。
「Vガンダム」のもうひとりの主人公カテジナ・ルースの物語がここから始まります。