はじめに
今年2023年は「機動戦士Vガンダム」30周年。
「ガンダムチャンネル」でVガンダムも配信されているので。視聴した方もいらっしゃるでしょう。
どちらかというと、富野監督のVガン全否定発言や鬱アニメとネガティブなイメージが先行している作品ですが、
「サンライズの鬼子」とまで言われた「Vガンダム」がどのようにして生まれたのか?
今では、新作ガンダムといえば公式YouTubeなどで制作・キャスト発表を大々的に行いますが、当時は新作情報をアニメ・ホビー誌や販促物から情報を得ていました。
当時の資料や関係者のコメントから企画中の新作ガンダム(のちのVガンダム)を回顧します。
1992〜1993年に発表された企画中の新作ガンダム情報
BANDAI PLASTIC MODEL KITS CATALOGUE 1993(ガンプラ1/100 RX-99 ネオガンダム付属)
引用元 バンダイホビー事業部
引用元 BANDAI PLASTIC MODEL KITS CATALOGUE 1993(バンダイホビー事業部)
ガンプラ「1/100 RX-99 ネオガンダム」 に付属していた販促パンフレットです。
そこには、
引用元 BANDAI PLASTIC MODEL KITS CATALOGUE 1993(バンダイホビー事業部)
新作ガンダム企画進行中!
かっこいいネオガンダムが特写されています。これを見て次の新作ガンダムはシルエットフォーミュラーだと妄想を膨らませていました。
植田益朗プロデューサー(当時サンライズ)のコメント
機動戦士ガンダム0083(レンタルビデオ版)R−6の映像特典インタビューで
0083のプロデューサーだった植田Pが、
ガンダムシリーズの次回作の予定についての質問に、こう答えています。
「富野監督に動いてもらっている」
「TVシリーズである」
引用元 機動戦士ガンダム0083(レンタルビデオ版)R−6映像特典
富野監督コメント(月刊ニュータイプ1992年10月号)
富野監督は、ガンダム次回作の構想として、
ディズニーや宮崎アニメのような一般受けするもの
主人公の年齢について
初めて言及しました。
「ガンダム世界をステップアップするだけではマニアしかついてこない」
「対極にあるディズニーや宮崎アニメのようなものをロボットものに取り込んでいければ」
「F91の主人公(シーブック)の年齢17歳は失敗だった。ディズニーや宮崎アニメにはそのような年齢の主人公はいない。」
「年齢を13歳にすることで見る側の共感が得られるのでは。」
引用元 月刊ニュータイプ1992年10月号
機動戦士Vガンダム制作発表(1993年)
新作ガンダム販促チラシ(ガンプラ1/100 F90Y クラスターガンダム付属)
引用元 バンダイホビー事業部
最新型Vガンダム始動!
ここで数々の情報が明らかになりました。
Vガンダムのフル武装
メカイラストは、メカニックデザイン協力で本作に参加していた佐野浩敏氏の描き下ろしではないかと思われます。
ガンダム本体は、前作F91と同様に流線型のフォルムが取り入れられたシンプルなデザインです。
ビームライフル装備、そしてビームシールドが展開されているところから、
F91の技術を受け継いでいることが伺えます。
敵側MS
ザンスカール帝国のMS(シャッコー・ゾロ)
敵側MSはコロニー内を飛行して、Vガンダムに強襲しようとしています。
敵側MSもビームシールド(ビームローター)を装備していることが判明。
攻撃ヘリ(ゾロ・トップターミナル)の存在が確認できます。
主要登場人物
主人公ウッソ・エヴィンと仲間たち
番組の提供クレジットに使用されていたイラストです。
様々な人種と犬が並ぶ、富野作品ならではの多様性のあるキャラクター群です。
この当時、性別が判明していなかったので、マーベットさんを男性だと思い込んでました。
ヒロインが有色人種というのも、当時は「ふしぎの海のナディア」以来だった記憶が。
ウッソは自信に満ちた表情で真っ直ぐ前を向いています。少年マンガに出てきそうな快活なイメージです。
ウッソはVガンダムのコクピットに座しています。
旧来のガンダムタイプとは異なるコクピットブロックです。
前作のF91と同様に上面ハッチが前にせり出す仕組みですが、リニアシートではなく新しいシステム(のちにコアブロックシステムと判明)です。
Vガンダムのガンプラ試作モデル(模型情報1993年3月号)
引用元 模型情報1993年3月号(バンダイホビー事業部)
Vガンダムの設定画と共に、Vガンダム(1/100スケール)のガンプラ試作モデルが公開されました。
ガンダム胸部に(コアファイターの)分割ラインがあるので、この時点でコアファイターとトップリムが分離できる機構を盛り込もうとしていたのではと推察できます。
腕部にはビームシールド発生器が露出。試作の段階では、Vガンダムの設定画に忠実な仕様になっています。
富野監督コメント(月刊ニュータイプ1993年4月号)
「テレビアニメの原点に戻って、楽しいロボットものにしたい。」
「主人公がなぜ13歳なのかといえば、それが最も見てもらいたい年齢層と重なるから。」
「ガンダム=宇宙のイメージを消すため、物語の出発点もあえて地球にしています。」
「Vガンダムはよく壊れます。今の子供たちはゲームソフトに影響もあって、主人公が絶対に強いと思っていない。むしろ、置かれた状況の中でどう戦うかを考える。それを前提として考えたときに出てきたのが、損傷したパーツを取り替えがきく、ヴィクトリータイプのガンダムなんです。」
「タイトルにV(ヴィクトリー)ガンダムなんて恥ずかしい名前をつけたのも、”ガンダム”と名がつく以上、そこにはどうしても”ガンダムらしさ=リアリティー”を求めるファンの人たちがいるわけです。(中略)そういったファンとは決別したかった。」
引用元 月刊ニュータイプ1993年4月号
当時の富野監督の意気込みが感じられるコメントです。
当時は、スーパーファミコンなどの家庭用ゲーム機や少年ジャンプの人気が隆盛していた頃。
既にロボットアニメの人気は下火になっているコンテンツでした。
なぜ、新作ガンダムを作らなければならなくなったのかは後述しますが、
作品としての構想は、
Vガンダムの主人公ウッソと同じ、13歳(小学校高学年〜)の年齢層をターゲットに、
ロボットアニメの原点回帰を図る意欲作でした。
なぜ新作ガンダムは前作F91の続編ではなかったのか
当時の制作スタッフのコメント
石垣純哉氏(メカニックデザイナー)
Vガンダムでは、主にザンスカールMSのデザインを担当
次期TVシリーズとして「F92」が検討されたかはわかりません。F91の公開直後だったので、当然そうだろうと思っていたからのデザインスタディです。メカデザイン打ち合わせ開始前の説明時に手渡された企画書には大きく「Vガンダム」とあり(え?F92じゃないんだ…)と思いましたよ。
— 石 垣 X 純 哉 (@gakky1967) July 10, 2023
前作「F91」が第二期ガンダムサーガの序章という位置付けだったため、
ガンダムシリーズの新作は、「F91」の続編(=F92)でしょうとなるのが自然な流れでした。
F91とは関連のない新作(=Vガンダム)となったのは寝耳に水だったのです。
当時のガンダムファンも「F91」の続編じゃないんだと思った方も多かったのでないでしょうか。
植田益朗プロデューサー(当時サンライズ)のコメント(富野由悠季全仕事)
「(2本の映画版ガンダム=逆シャア・F91は)結果的には初期(ファーストガンダム)の映画にように大ヒットしなかった。その一方で、リアル志向ではない”SDガンダム”というのが商品として非常に売れてくる。」
「富野監督以外が送り出した作品をいくつかOVAシリーズ(0080・0083)としてやりましたが、当時の(サンライズ)社長からは、縮小再生産だと言われ、新しいものがないと。その一方で、生まれて最初に接したガンダムがSDガンダムだという子どもたちがたくさんいるような状況もある。そんな中で考えていった結果、「もう一回テレビで、富野監督の”ガンダム”をやるべきだ」という結論になり、機動戦士Vガンダムが始まっていったんです。」
引用元 富野由悠季全仕事(1999)
富野監督のコメント(富野由悠季全仕事)
映画は映画という完全に固有の媒体なんですよ。だから「F91」は徹底的につまらなかった。「TVの3話か4話分をまとめたものなんですよ」というエクスキューズが最初にあって、取り敢えずやってみたら、みんなが観てくれたというのなら良かったんですけど、あれを映画として売ってしまい、そして失敗してしまったために、TVシリーズも敷けなかった。映画としての評価も全く出て来なかった。
引用元 富野由悠季全仕事(1999)
今振り返ると、物語の冒頭部を映画でやって、
その後の話はTVシリーズで行うという商品展開はかなりのレアケースだと思えます(逆のパターンならよくある流れですが)。
「F91」は、そういった意味ではかなり尖ったチャレンジだったといえます。
「F91」をやった時は、「これは次のテレビ版の一話だからね」という話をしていて、それを(サンライズの)経営者たちは受けていたはずなんですが、それがスポンと消えたので、「あれ?なんだったんだろう」とは思いました。それでまた、全く新規にやってもらわなくちゃ困るんだよ、という言われた方をした。
引用元:それがVガンダムだ―機動戦士Vガンダム徹底ガイドブック ササキバラ ゴウ【著】
後年、Vガンダムを語る上で切っても切れない
「サンライズ身売り問題」です。
サンライズ経営陣は、バンダイへ自社株式を売却(身売り)の準備を水面下で進めていました。
売却を有利に進めるための手段として、興行で失敗した「F91」ではなく、
完全新作を制作する必要がありました。
Vガンダム制作発表時、富野監督は「F91」の今後についても言及していました。
そこには、Vガンダムが成功すれば、来年は「F91」の続編と「V」の2本立ての制作を予感させるコメントを残しています。
「Vガンダムをマンガチックにでき、完全に色合いの違うガンダムがつくれたならば、かなりずうずうしいですが、F91以後のガンダムが別にあって、ひょっとしたら来年2本立てができるかもしれません。もちろんF91を継承した物語は当然あり、それを作る機会を狙っているのです。」
引用元 月刊ニュータイプ1993年4月号
当時は、「F91」のことも忘れていないんだという安心感と、
今後の展望に期待を膨らませていました。
結果は、皆さんもご存知のように「F91」の続編は制作されず、
直系の続編は「機動戦士クロスボーンガンダム」(1995)まで待つこととなります。
そして次年度は、「機動武闘伝Gガンダム」(1994)として
17年続いた宇宙世紀ガンダムとは一線を画す、
平成アナザーガンダムが始まるのです。
まとめ
- ガンダムシリーズの新作はF91の続編(シルエットフォーミュラーやF92)はではなく、「機動戦士V(ヴィクトリー)ガンダム」だった。
- Vガンダムのメインターゲット層は生まれて初めて触れたガンダムがSDガンダムという世代。テレビアニメの原点に戻って、楽しいロボットものにしようとしていた。
- 当時のサンライズ経営陣としては、バンダイにサンライズを身売りを有利に進めるため、興行的に失敗したF91の続編より完全新規でガンダムを制作したかった。